« 吉備津蓮華祭り | トップページ | ハナミズキ »

2006年5月 1日 (月)

氷壁 井上靖著

私の評価 ◎ 2006年4月読書

穂高でのザイル切断事故をモチーフにした小説。解説には恋愛小説となっているが、私としては??。

前穂の東壁を登る主人公達。頂上直前、全く衝撃がないままにザイルが切れ、落下する。なぜ、ザイルが切れたのか? 初めてナイロンザイルを使用した、主人公魚津の苦悩が始まる。
友人をなくした衝撃と苦悩。計り知れないものがある。そんな中魚津は、なぜザイルが切れたのかに集中する。登山家として、二度とこのような事故が起きないために。死んだ親友の為にも是非明確にしておきたい。

当事者として、親友を愛し山を愛する者として当然のことだろうと思う。 

ところが、マスコミは放っておいてはくれない。「切れずはずのないナイロンザイルが切れた」として事件性を追う。山岳会を交えて、色々な憶測がでる、「魚津が切った」「死んだ親友がきちんと結んでいなかった」等々。 しかし、数ヵ月後、遺体とザイルが発見さら、岩ズレで破断されていたことが判ってももはやニュース性がないと無視される。

40年以上も昔に書かれた本だが、マスコミの対応が全く現在と変わっていないことに驚かされた。「知る権利」などと言っているが、興味本位での取材は変わっていない。人間の本質かもしれない。

登場人物の中で、魚津の上司である「常盤」が面白い。太っ腹で、部下「魚津」を心から信じ支援する。私自身もこうありたいとは思うが、とてもこんな大人物にはなれない。最近はこんな人物が少なくなってきているのが残念だ。

この小説は、実際に起きたナイロンザイル事故をベースにしている。学生時代、教授が講義中によく話していたのを思い出す。 確か従兄弟がこの事故でなくなった。主人公の魚津と同じで、なぜ切れた、なぜそんなザイルを売ったと話していた。 人の死はほんとに重い。

小説では、ナイロンザイルがなぜ切れたかの検証実験が行われる。結果は、強度的に従来のザイルよりも強く、衝撃では切れない、擦れには弱いことが見出された。しかし、「強い」「切れない」がマスコミにより一人歩きする。
作中にもあるが、再現実験は所詮、あるモデル条件下での評価であり、完全なる再現は不可能だ。真実に近づくことが出来ても、真実は再現できない。 確かにそうだが、可能な限り現実に近づく実験をして真実を見出していくのが技術者だと思う。

恋愛も含め、色々と考えさせられた本だった。

|

« 吉備津蓮華祭り | トップページ | ハナミズキ »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/147658/9843800

この記事へのトラックバック一覧です: 氷壁 井上靖著:

« 吉備津蓮華祭り | トップページ | ハナミズキ »